担当:M1 窪田薫
☆Science 25 June 2010 , volume 328☆
The Last Glacial Termination
G. H. Denton, R. F. Anderson, J. R. Toggweiler, R. L. Edwards, J. M. Schaefer, and A. E. Putnam
Science 25 June 2010: 1652-1656.
最終氷期から完新世にかけてのターミネーション(退氷)に関する仮説。北半球の氷床崩壊が大気海洋の大循環に影響を与え、stadial(亜氷期)時には南半球では偏西風が南下して湧昇や温度に変化を与え、南大洋や南極のターミネーションを引き起こした。南大洋や南極の湧昇増大期に伴う大気中の二酸化炭素の増加が極の温暖化をさらに増大させた。
Detection of Hydrated Silicates in Crustal Outcrops in the Northern Plains of Mars
J. Carter, F. Poulet, J.-P. Bibring, and S. Murchie
Science 25 June 2010: 1682-1686.
火星の古代地殻を調べることは初期火星の発達史を解読する役に立つ。火星の北半球の大きなクレーターの画像スペクトルを解析したところ、9つのクレーターから層状ケイ酸塩(初期火星の地殻)が発見された。この層状ケイ酸塩は南半球にも見られるため、火星の両半球にはかつて水が存在したことが示唆される。
Hydrogen Isotopes Preclude Marine Hydrate CH4 Emissions at the Onset of Dansgaard-Oeschger Events
Michael Bock, Jochen Schmitt, Lars Möller, Renato Spahni, Thomas Blunier, and Hubertus Fischer
Science 25 June 2010: 1686-1689.
海底下のメタンハイドレートの崩壊と気候変動との関わりが活発に議論されている。NGRIPのアイスコア中のメタンの水素同位体比を測定したところ、DO(ダンスガード・オシュガー)イベントの7と8にメタンハイドレートは関与していないことが分かった。ボックスモデルによると湿地の増加が原因として考えられる。
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☆Nature 24 June 2010 volume 465☆
Nitrate supply from deep to near-surface waters of the North Pacific subtropical gyre
Kenneth S. Johnson, Stephen C. Riser & David M. Karl
doi:10.1038/nature09170
貧栄養の海洋では春と夏に表層の混合層のDICが減少する。栄養塩が不足しているのにどうやってDICが生物に取り込まれるのかがよく分かっていない。ハワイ近海で21ヶ月にわたって取られたNO3-とO2の高解像度の測定結果から、O2が生産されDICが消費されるとき、深度100-250mでのNO3-は不足することが分かった。表層から250m深までを一まとまりに考えると栄養塩の需要供給が釣り合っている。深層の富栄養の水が表層の貧栄養の水に混入する短期間(10日以内)のイベントも確認された。
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☆ Nature Geoscience 2010 6, vol.3 No.6☆
Methane emissions from extinct megafauna
Felisa A. Smith, Scott M. Elliott & S. Kathleen Lyons
doi:10.1038/ngeo877
巨大生物の絶滅は大気中のメタン濃度に大きな影響を与える。GISP2のコアから復元された大気中のメタン濃度と、生物絶滅のタイミングとを比較。それによるとアメリカ大陸に人類が進出し、巨大生物を狩り尽くした時期は、ヤンガードライアスの始まりに一致している。またこの時期のメタン濃度の低下は25-100%が草食動物の絶滅のせい。
Misrepresentation of the IPCC CO2 emission scenarios
M. R. Manning, J. Edmonds, S. Emori, A. Grubler, K. Hibbard, F. Joos, M. Kainuma, R. F. Keeling, T. Kram, A. C. Manning, M. Meinshausen, R. Moss, N. Nakicenovic, K. Riahi, S. K. Rose, S. Smith, R. Swart & D. P. van Vuuren
doi:10.1038/ngeo880
IPCCのCO2排出シナリオ以上に人類はCO2を排出してはいない。
News and Views
Palaeoclimate: A fiery start to the Jurassic
Bas van de Schootbrugge
doi:10.1038/ngeo878
三畳紀/ジュラ紀境界は温室効果を含む大きな気候変化があったことで知られている。東グリーンランドの古生態の復元から、植生変化と気候変化に伴い山火事が増加したことが分かった。
Early Earth: Hard core constraints on accretion
Tim Elliott
doi:10.1038/ngeo883
地球形成にかかった時間はまだ分かっていない。地球コア形成モデリングによって、地球は数千万年で大体は固まり、1億年ほどかけてようやく出来上がったことがわかった。
Ocean science: Balancing ocean nitrogen
Wolfgang Koeve & Paul Kähler
doi:10.1038/ngeo884
海の窒素収支は定量的に分かっていない。モデリングによって植物プランクトンのリンに対する窒素の取り込みがわずかに小さくなるだけで、窒素固定効率が大きく変化することが分かった。
Glaciology: Sliding to sea
Byron R. Parizek
doi:10.1038/ngeo879
グリーンランド氷床は山岳氷河とは似ても似つかないが、基底部の動きは類似しているため、海水準変動の予測には同一の知識が必要である。
Glacial cycles: Atmosphere and ocean chemistry
Richard E. Zeebe & Thomas M. Marchitto, Jr
doi:10.1038/ngeo882
氷期に大気中二酸化炭素濃度が変化したとき、海洋の炭酸塩系の化学も変化したはずである。しかし深海は同様に変化したかが分からない。
Review
The impact of global warming on the tropical Pacific Ocean and El Niño
Mat Collins, Soon-Il An, Wenju Cai, Alexandre Ganachaud, Eric Guilyardi, Fei-Fei Jin, Markus Jochum, Matthieu Lengaigne, Scott Power, Axel Timmermann, Gabe Vecchi & Andrew Wittenberg
doi:10.1038/ngeo868
ENSOは非常に多くの人々に影響を与える熱帯太平洋の自然現象である。気候変化がエルニーニョの諸過程に対する影響の理解は深まりつつあるが、現象そのものに対する予測はまだ可能ではない。
Letters
Consistent geographical patterns of changes in high-impact European heatwaves
E. M. Fischer & C. Schär
doi:10.1038/ngeo866
気候予測は今世紀中にヨーロッパの夏の熱波の頻度が増すことを示唆している。一連の高解像度の地域気候予測シミュレーションを行ったところ、最も深刻なのはヨーロッパ南部の河川流域と地中海沿岸であることが分かった。
Accelerating uplift in the North Atlantic region as an indicator of ice loss
Yan Jiang, Timothy H. Dixon & Shimon Wdowinski
doi:10.1038/ngeo845
グリーンランドと南極の岩場の垂直運動は氷床量に応じて変化しているが、氷床発達・衰退が過去の垂直運動を曖昧にしてしまう。垂直運動の加速度を分析したところ、グリーンランド西部の氷床が減少し始めたのは1990年代後半であることが分かった。
Seasonal evolution of subglacial drainage and acceleration in a Greenland outlet glacier
Ian Bartholomew, Peter Nienow, Douglas Mair, Alun Hubbard, Matt A. King & Andrew Sole
doi:10.1038/ngeo863
グリーンランド氷床の縁辺部では、氷床の運動が早まった結果、氷床の減少の加速している。GPSを用いた観測から、氷床の運動には大きな季節性があることが分かった(夏は冬の2.2倍)。
Magnitude of oceanic nitrogen fixation influenced by the nutrient uptake ratio of phytoplankton
Matthew M. Mills & Kevin R. Arrigo
doi:10.1038/ngeo856
植物プランクトンの窒素のリンにたいする割合は種は成長段階によって大きく変化する。生態モデルから、早く-遅く成長する植物プランクトンの相対的な量が海に新しく追加される窒素の量をコントロールしていることが示唆される。
Late-twentieth-century warming in Lake Tanganyika unprecedented since AD 500
Jessica E. Tierney, Marc T. Mayes, Natacha Meyer, Christopher Johnson, Peter W. Swarzenski, Andrew S. Cohen & James M. Russell
doi:10.1038/ngeo865
Tanganyika湖(アフリカ東部)は過去90年で暖かくなり、徐々に成層化し生産性が落ちて来ている。湖底堆積物のTEX86と生物源シリカの石炭量に対する重量比を分析することで、過去1500年間温暖化は起きていないことが分かった。
※TEX86; オランダのStefan Schouten博士により2002年に提案された古水温指標で,海洋クレンアーキオータが生成するGDGT(グリセロールジアルキルグリセロールテトラエーテル)を利用する。
Increased fire activity at the Triassic/Jurassic boundary in Greenland due to climate-driven floral change
Claire M. Belcher, Luke Mander, Guillermo Rein, Freddy X. Jervis, Matthew Haworth, Stephen P. Hesselbo, Ian J. Glasspool & Jennifer C. McElwain
doi:10.1038/ngeo871
2億年前の気候の温暖化は劇的な環境の変化を伴う。実験と古生物学のデータから、この時に気候変化に伴い燃えやすい形の葉を持つ植物相への変化が東グリーンランドの山火事の頻度を増加させたことが分かった。
Effect of nutrient availability on marine origination rates throughout the Phanerozoic eon
Andrés L. Cárdenas & Peter J. Harries
doi:10.1038/ngeo869
5億年かけて海の生物の多様性は変化してきた。統計分析から使える栄養塩の量の変化が、進化率をコントロールする重要な要素であることが示唆される。
Broad bounds on Earth’s accretion and core formation constrained by geochemical models
John F. Rudge, Thorsten Kleine & Bernard Bourdon
doi:10.1038/ngeo872
地球は金属コアとケイ酸塩のマントルを持つ特異な天体である。降着の際、金属もケイ酸塩も完全に混ざっていたと考えられるが、部分混合だけを仮定している地球の形成モデルも地球化学的な観測にほとんど矛盾しない。