☆オススメ論文&教科書紹介★
窪田薫
15
May 2012
生物源炭酸塩を使った研究をしている人々は研究室に多くいるので、他の人とテーマがあまり被っていない「ホウ素同位体」「海水炭酸系」「全球の炭素循環」を中心に重要な論文を紹介したいと思います。ホウ素同位体で分かるのは海水の「pH」だと考えられていますが、pHは海水の炭酸系を記述するパラメターの1つに過ぎず、また海水の炭素リザーバーが非常に大きいことから海水の炭酸系の変動は大気中の二酸化炭素濃度の変動(すなわち気候変動)とも密接に関わっています。そのため、これらを分けて考えることはできません。
次回は「近年の海洋酸性化の観測と将来予測」をテーマに紹介しようかと考えています。
ア)海成炭酸塩ホウ素同位体-海水炭酸系
(Boron isotope of marine carbonates – marine
CO2 systems)
[Papers]
1.
海洋におけるホウ素同位体とpH
大出茂 & Zuleger (1999)
地球化学 33 (2), pp. 115-122
ちょっと古いですが、「ホウ素-pH関係」について日本語で書かれた論文はこれだけだと思います。ホウ素同位体測定の開発の歴史にも詳しく書かれています。
2.
海水の炭酸系とサンゴ礁の光合成・石灰化によるその変化
–理論と代謝量測定法-
鈴木淳 (1994)
地質調査所月報 45 (10) pp.
573-623
これまた古いですが、日本語で書かれた炭酸系の本は少ないので重宝します。炭酸系の理論体系を紹介しています。炭酸系の平衡定数などは時代とともに仮定されているため、最近のものを使用する必要があります。最近の海洋炭酸系のハンドブックとしては「Guide to best Practices
for ocean acidification research and data reporting
by Riebesell et al. (2010)」が有名です。
3.
A critical evaluation of the boron isotope-pH proxy: The accuracy of
ancient ocean pH estimates
Pagani et al. (2005)
Geochimica et Cosmochimica Acta 69 (4) pp.
935-961
ホウ素同位体-pH関係に内在する様々な問題点を指摘し、痛烈に批判した論文。新生代を通じてのpH復元は現時点では不可能ではないかということを指摘。
4.
Comment on ‘‘A critical evaluation of the boron isotope-pH proxy:
The accuracy of ancient ocean pH estimates’’ by M. Pagani, D. Lemarchand, A.
Spivack and J. Gaillardet
Honisch et al. (2007)
Geochimica et Cosmochimica Acta 71, pp.
1636-1641
Pagani et al. (2005)に対するコメント。Pagani et al. (2005)の見落としている点を的確に指摘し、ホウ素同位体-pH関係が有用な指標であることを主張。現時点で最も信頼されている、経験的なホウ素同位体-pH関係式を提唱しています。
5.
High-precision isotopic analysis of boron by positive thermal
ionization mass spectrometry with sample preheating
Ihikawa & Nagaishi (2011)
Journal of Analytical Atomic Spectrometry
26 pp. 359-365
ホウ素同位体測定法に関して。ホウ素同位体の測定方法には様々な方法がありますが、P-TIMS法と呼ばれる測定法について、世界最高水準の測定精度を出すためのコツが述べられています。高知コアセンターのTIMSを用いてホウ素同位体を測定する場合、この方法に則って測定を行います。
[Textbooks]
Ravizza & Zachos (2003)
Treatise on Geochemistry (6.20 Records of
Cenozoic Ocean Chemistry, pp. 572-576)
7.
Boron Isotopes in Marine Carbonate Sediments and the pH of the Ocean
Hemming & Honisch, (2007)
Developments in Marine Geology 1 pp.
717-734
8.
Paleo-perspectives on ocean acidification
Pelejero et al. (2010)
Trends in Ecology and Evolution, 25 (6),
pp. 332-344
海洋の炭酸系の中でも特に「pH」に着目して、自然のpH変動(外洋、サンゴ礁内)やサンゴの石灰化、ホウ素同位体-pHメカニズムをレビューした論文。
イ)過去の炭素循環(Carbon cycle in the past)
[Papers]
○氷期-間氷期スケール
9.
The polar ocean and glacial cycles in atmospheric CO2
concentration
Sigman et al. (2010)
Nature 466 pp. 47-55
興味がある人はSigman & Boyle
(2000, nature)も併せて読むことをお勧めします。「南大洋」の氷期-間氷期の炭素循環における重要性を指摘し、偏西風の位置や海氷の張り出しが海洋循環に与える影響をレビューしています。
10. THE MYSTERIOUS 14C
DECLINE
Broecker (2009)
RADIOCARBON, 51 (1), pp. 109-119
内容としてはBroecker &
Barker (2007, EPSL)と大体同じです。「Mystery
Interval」と呼ばれるおよそ18-11kaの炭素循環における謎をレビューしています。簡単なボックスモデルによる計算で、Δ14Cや炭酸塩補償深度の変化などを議論しています。
○顕世代
11. The Geological Record of
Ocean Acidification
Honisch et al. (2012)
Science 335, pp. 1058-1063
最近書かれたレビュー論文で、地質学的な時代でどの時代が現在の人為起源の海洋酸性化のアナログになるかを議論しています。