12/15/2010

新着論文紹介(2010.12.14)

新着論文紹介(2010.12.14)

Science vol.334 (2010.12.10)
PERSPECTIVE
Earth's Second Wind
Lee R. Kump
DOI: 10.1126/science.1199919
モリブデン(Mo)の同位体比が海洋の酸素濃度のproxyとなる(有機物とpyriteに富んだ堆積物中に存在)。地球史における酸素濃度の上昇は生物の身体の大きさの増加と正相関が見られる。

REVIEW
Scenarios for Global Biodiversity in the 21st Century
Henrique M. Pereira et al.
DOI: 10.1126/science.1196624
21世紀の生物多様性のモデル予測。

RESEARCH ARTICLE
The Impact of Conservation on the Status of the World’s Vertebrates
Michael Hoffmann et al.
DOI: 10.1126/science.1194442

REPORT
A Determination of the Cloud Feedback from Climate Variations over the Past Decade
A. E. Dessler
DOI: 10.1126/science.1192546
温暖化に対する雲によるフィードバックは‘正’。10年間の衛星観測と10個のモデル計算から。

Nature vol.468 (2010.12.9)
News Feature
Food: A raste of things to come?
Nicola Jones
doi:10.1038/468752a
人工肉の時代がやってくる

Ice-sheet acceleration driven by melt supply variability
Christian Schoof
doi:10.1038/nature09618
次第に薄くなりつつあるグリーンランド氷床の物理過程についてのモデル計算。氷床の表面の融水が氷床を薄くする正のフィードバックプロセスが存在することが観測から言われているが、ことはそう単純ではなく、融水の加わる量の変動こそが氷床の融解を加速している。
温暖化によりグリーンランドを通過する低気圧の頻度が増し、降水量が増加すれば氷床融解はさらに加速するであろう。また過去の氷床拡大のモデルも本研究で得られた結果をもとに改善する必要がある。

Nature geoscience vol.468 (2010.12)
Commentary
Maritime boundaries in a rising sea
Katherine J. Houghton, Athanasios T. Vafeidis, Barbara Neumann and Alexander Proelss
doi:10.1038/ngeo1029
海水準変動によって経済水域にも影響が出てくる

news and views
Palaeoclimate: How it went down last time
David Archer
doi:10.1038/ngeo1031
PETM (Palaeocene–Eocene Thermal Maximum; 55Ma)は大気海洋中に急激に炭素が放出されたことが原因。その後炭素が固定されるまでに10万年かかった。

Marine geology: Release through erosion
Amy Whitchurch
doi:10.1038/ngeo1034
約5万年前、南海トラフのメタンハイドレートが崩壊し、大量のメタン(現在の大気中メタンの3%程度)が大気海洋中に放出された。

Climate science: Raised bar for rain
Adam Sobel
doi:10.1038/ngeo1025
地球温暖化により熱帯のSSTと降水量が変化している。ここ数十年にかけて熱帯の大気上層が温暖化していることが観測から判明。

Biogeochemistry: Soil carbon breakdown
Ivan A. Janssens & Sara Vicca
doi:10.1038/ngeo1024
温暖化によって土壌中の微生物活動が低下すると、土壌から大気中に二酸化窒素が放出(炭素固定の弱化)され、温暖化をさらに加速させる正のフィードバックが働くと考えられる。北アメリカの様々な土壌を培養することで、土壌により様々な結果が得られたが、全体として温度と微生物の活動度との間に負の相関が得られた(Craine et al., 2010, Nature Geoscience;後述)。

Review
Changes in the sea surface temperature threshold for tropical convection
Nathaniel C. Johnson & Shang-Ping Xie
doi:10.1038/ngeo1008
一般に熱帯域ではSST26-28℃で大きな鉛直対流が起きるが、ここ30年の衛星観測データから、その閾値が上がっていることが分かった。SSTも鉛直対流の閾値も10年に0.1℃の割合で上がってきている。

Skilful multi-year predictions of Atlantic hurricane frequency
Doug M. Smith, Rosie Eade, Nick J. Dunstone, David Fereday, James M. Murphy, Holger Pohlmann & Adam A. Scaife
doi:10.1038/ngeo1004
北大西洋のハリケーンの頻度は1970年以来増加しているが、それが自然の変動か人為起源かがよく分かっていないし、いまなされているハリケーンの頻度予測も1シーズンに限られている。筆者らのチームでは、数年間のハリケーンの頻度予測が可能なモデルを開発。

Sea level as a stabilizing factor for marine-ice-sheet grounding lines
Natalya Gomez, Jerry X. Mitrovica, Peter Huybers & Peter U. Clark
doi:10.1038/ngeo1012
気候変動が西南極氷床のような棚氷に与える影響のモデル評価。重力と氷床解放に伴う海水準変化は逆傾斜の氷床(?;reversed bed slope)の場合、棚氷を安定させる方向に働く。

Widespread coupling between the rate and temperature sensitivity of organic matter decay
Joseph M. Craine, Noah Fierer & Kendra K. McLauchlan
doi:10.1038/ngeo1009
土壌は地球上における大きな炭素リザーバーである。北アメリカの様々な土壌を培養し、微生物の活動度と温度との関係を考察。有機物が生物にとって分解されにくいものである程、微生物活動度の温度依存性は大きくなることが分かった。

Sedimentary membrane lipids recycled by deep-sea benthic archaea
Yoshinori Takano, Yoshito Chikaraishi, Nanako O. Ogawa, Hidetaka Nomaki, Yuki Morono, Fumio Inagaki, Hiroshi Kitazato, Kai-Uwe Hinrichs & Naohiko Ohkouchi
doi:10.1038/ngeo983
相模湾の新海底において、底性古細菌が脂質膜をどのように作っているかをin situ実験。13Cでマーキングしたグリセロールを与え9450日間経ってから観測を行った。backboneはマーキングされたが、isoprenoid chainはマーキングされなかった。前者は新しくグリセロールから形成されたが、後者は古細菌の脂質の残存物や有機物の残骸から形成(リサイクル)されたことが示唆される。

Sand residence times of one million years in the Namib Sand Sea from cosmogenic nuclides
P. Vermeesch, C. R. Fenton, F. Kober, G. F. S. Wiggs, C. S. Bristow & S. Xu
doi:10.1038/ngeo985
ナミブ砂漠の砂の宇宙線照射生成核種(26Al, 10Be, 21Ne)から100万年間の間、ナミブ砂漠の砂は存在し続けていることが分かった。

Rapid carbon sequestration at the termination of the Palaeocene–Eocene Thermal Maximum
Gabriel J. Bowen & James C. Zachos
doi:10.1038/ngeo1014
PETM (Palaeocene–Eocene Thermal Maximum; 56Ma)の原因は数千pgもの炭素が大気海洋と生物圏にばらまかれたことが原因である。しかしその後の炭素固定の過程はよく分かっていない。年代がよく定まった海と陸の堆積物記録から、2,000pgの炭素が30,000-40,000年で固定されたことが示唆される。